2022.03.07
二階堂恵理菜:ジェンダーの壁を乗り越えた水産業界で働く女性の志事
―男性社会で自然を相手に自分らしく働く―
■アイスランドでシシャモを追いかけて
私は、アジア人女性で初めて、アイスランドのカラフトシシャモ漁船に乗った人です。カラフトシシャモは、広大な海域を泳ぎ回って暮らしている回遊魚で、アイスランドの南西で産卵します。アイスランド漁船は魚群を追いかけて漁獲しています。日本では、シシャモは口をパカっと開けて干されているイメージが強いと思いますが、本当は、口はちゃんと閉じてますし、とてもかわいいんですよ。
■夢破れて、たどり着いたところが水産業界だった
私は、昔からシシャモを追いかけたかったわけではありません。実は、若い時はアナウンススクールに通っていて、アナウンサーを目指していました。でも、夢はかなわなかったんです。将来の夢を見失っている時に、追い打ちをかけるように、リーマンショックが起こりました。時代に翻弄されながら、たどり着いた先が、「水産業界」だったんです。事務職で採用されて、アイスランド、タイ、中国などに出張したりもしましたが、水産業界は男性社会という根強い固定観念があり、それで、今度はジェンダー差別に悩まされるようになったんです。
■ジェンダーの壁を乗り越える決意
水産業界は男性社会なので、私が女性であるという理由だけで、私の仕事の選択肢はありませんでした。
「生きたシシャモを見ることはない。一流になれない」
「女性はライフイベント(結婚、出産など)でブランクができるから現場で働くことはできない」
と言われ、とても憤りを感じました。女性=二流止まりという固定観念にとても腹を立てました。でも、逆にそれがパワーとなり、「生きたシシャモを私でも見られると証明する」と決意し、ジェンダーバイアスが低いアイスランドの水産会社に転職しました。
■魚で世界とつながることができる
私を仕事に突き動かした一番の原動力は、一流になれないと言われたことですが、水産業界の仕事にも魅力を感じていました。実は、水産業界はとても面白いんです。世界を肌で感じることができます。例えば、頭がない魚を必要とするアジア圏の国は日本だけです。中国や韓国は絶対頭がついていないとダメなんですよ。同じ商材をとっても、国によって扱いが全然違っていて、世界の食文化や商習慣や経済動向を学ぶことができます。また、海外の人と話す時に、言語の壁ってどうしてもあると思うんですが、魚を目の前にすると、不思議に言語が違う人と意思の疎通ができます。魚が共通の言語になるんです。
■AIと共存していく
水産業界は、もうすでにIT化が進んでいる分野もあり、魚を切り分ける加工などの作業は機械が誤差なく正確にしてくれています。人材は不足しているので、単純な作業はぜひAIにしてほしいと思っています。でも、漁獲や販売などは自然や世界各国が相手なので、人間が機転を利かせて柔軟に対応する必要があるため、AIには対応できないと考えています。また、私はAIによってジェンダーの壁が薄くなることにも期待しています。AIと共存しながら発展していく業界といえます。
■未来を生きる子どもたちへ
挫折の末にたどり着いた水産業界でしたが、この業界はとても面白いです。日本の魚を海外に輸出したり、海外の魚を輸入したり、世界と文化を肌で感じることができます。パソコンを使った仕事もいいけど、現物を自分の手で触って、インスピレーションを感じることができる仕事もおすすめですよ。
二階堂恵理菜
アイスランディックジャパン株式会社 営業