熊谷雅之:子どもの笑顔が輝く国へ!公立中学校教師の志事 | 誰かの役に立つ「志事」の素晴らしさ

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2022.03.08

熊谷雅之:子どもの笑顔が輝く国へ!公立中学校教師の志事

日本中の子どもたちの幸せを第一に考えた教育がしたい!


■社会科担当、野球部顧問、公立中学校教師の僕が本当に目指していること

僕は現在、愛知県の公立中学校で先生をやっています。昨年は中3の担任で進路指導主事を担当し、今年は中1の担任をしています。担当の教科は社会科で、歴史・地理・公民を教えていて、部活動は野球部の顧問をしています。ただ、愛知県では“まん防”が発令されている期間は部活は行ってはいけないので、ずっと活動できていない状態です。

今の2年生は、新人戦も中止になり、今度の春の大会もできるかどうか未定で、一度も大会に参加できていないんです。なんとか一度でも大会に出場させてあげたく、いま各校の顧問が一丸となって会場や道具の手配をして、手作りですが、3月後半には大会が開催できるように頑張っているところです。

社会科や野球部顧問といった担当はありますが、僕が今本当に目指していることは、まずは目の前の子どもたち、クラスの子どもたち、部活に入ってくれた子どもたち、もっともっと広げていえば、日本中の子どもたちの幸せを第一に考えた教育をやりたいと思って日々現場で頑張っています。




■子どもにとっての幸せーーー3つの大切なこと

僕は、子どもの幸せの定義って3つあると考えています。

ひとつめは『自分の心が充実していること』。
幸せの形はそれぞれで、その子自身が、心が充実していると思えるかどうかが一番大事だと思っているのですが、一度、現場でこんなことを聞かれたことがありました。「先生、幸せの形が人それぞれなら、人のことをぶん殴ってそれで僕は幸せです、と言ってる人がいたら、その幸せも尊重されるんですか」と。それに対して「そうだね、その子が幸せならそれでいいんじゃない」とはやはり言えず、幸せの形って人それぞれではあるけれど、“最低限のライン”というのがあるんじゃないかと、自分なりに考えてみました。

そこで考えた2つめは『困難を乗り越えていく力を身につけること』。
中学生活って、本当に悩みの連続なんです。大人からすれば小さいことだと思うようなことも、中学生はずっと悩んでいる。体型や恋愛ひとつとってもすごく悩んでいる。ただ、人生生きていくと、辛いことって大人になってもいっぱいある。望んでもな辛いことが来ることもいっぱいありますが、それをたくましく乗り越えていく力を身につけてほしいなと思います。

最後のひとつは『人に貢献すること』。
たとえば、ギターがとても上手な子がいたとして「僕はギターを弾くことで充実しています」といっても、壁に向かってずっと演奏していればいいかといえばきっとそうじゃない。「お笑いが好きです」といっても、壁に向かって漫才して満足するわけではない。人の前で発表したり表現したりする事、人に貢献したり人に喜んでもらいたい、という思いはみんなが持ってる根本的なものだと思います。

子どもたちには最低限この3つが幸せのために大切なことかなと話していて、僕はそのお手伝いができるといいなと思っています。教員といっても神様じゃないので、僕たちが子どもたちを思うように変えるなんていうのはおこがましい。目の前で子どもたちが劇的に変わることもあるけれど、当然自分の力だとは思っていません。その裏には当然、保護者の関わりもある。僕らは中学校3年間しか関われないけれど、親は生まれた瞬間からずっと子どもを見続けていて、その力は間違いなく大きい。

ただ、だからといって、目の前の子どもに対する責任を僕らが放棄してしまうのはとても卑怯だなと。神様じゃないから思い通りに変えることはできないけれど、責任をなすりつけて知らんぷりというのは違う。どんなときも生徒たちを立派に育てたいという気概だけは失いたくないと思って頑張っています。


■子どもたちの笑顔が見られる、子供たちの成長が見られることこそ、教師という志事の絶対的な素晴らしさ

この志事の素晴らしさは、子どもの笑顔が見られる、これがこの志事の一番の醍醐味だなと思っています。一番の特権です。経済的な問題なども全部つながって、子どもの笑顔が輝いている国は未来が明るいと思っています。子どもたちの笑顔が輝く国になりたい、したい!という思いはずっとあります。



また、中学生は劇的に成長します。思春期ならではの小さいことも含めてたくさんの成長があります。例えば、いつも忘れ物ばかりしていた子に手帳の使い方をイチから教えたら、忘れ物をまったくしなくなって、むしろ自分から先取りして予定を組めるようになったり、他の生徒をイジって楽しんでいた子が、いじめられている子を守ってくれるヒーローに変わるなんて瞬間もいっぱいある。その子なりの成長を目の前で見せてもらえるのが、本当にこの志事の楽しさだと思っています。

子どもたちって素直なんです、とても。僕はよく生徒と対話するんですが「ここはこうなんじゃないのか」とか「君はそう考えるのか~」なんて話していると、こちらの話もとてもよく聞いてくれるし本音も言ってくれる。その素直さにとても心が洗われることがあるんです。与えているようで、与えてもらっている志事だなって思います。


■長時間労働…ブラックと言われる教員の労働環境も、きっと変えていける

労働環境が大変なのは実際にあると思うし、大変な思いをされている人もいっぱいいます。Twitterなんかで教員の環境はブラックだと教員自身が声をあげていることもあって、最初は、そんなツイートはやめてほしいと思っていました。それを言って誰が得するんだ、これから先生になろうっていう人たちがそのツイートを見て業界に希望を見出すことができるのかと思っていたのですが、これをつぶやいている人たちも仲間だったなと思い直すことがあって、とても反省したんです。

実際こうやって声をあげているということは、そういった現状があることは間違いなくて、制度を変えていかなくてはいけない。ただ僕は文部科学省の職員とかではないので、何ができるかといえば、教育に対する考え方、教育哲学をみんなが確立していくこと、そうすれば絶対によくなると信じています。なので、自分からもどんどん発信していくことで誰かの役に立てるなら頑張っていきたいです。


■尊敬する先輩の死が気づかせてくれた1日1日を大事にすることの大切さ。本の出版へーー

教員の労働環境に対してや教育に対する想いなど、発信するようになったきっかけがあります。実は、一番尊敬していた先輩が40歳でガンで亡くなって…一番お世話になって可愛がってくれた先輩が亡くなってお葬式にいったときに、もう動かない先輩を見てめちゃくちゃ泣いたんですけど、そのとき「あぁ、自分は生きているんだ」と思いました。だったら、1日1日を大事にして、やりたいと思っていたことをやらなきゃその先輩にも申し訳ないと感じたんです。「生きている」ということを、とても考えさせられたんですね。それで、やれることを1日1日積み重ねようと思って、1作目の本をワーッと書き上げました。(『教師は学校をあきらめない! 現場発信 子どもたちを幸せにする教育哲学』熊谷雅之/幻冬社




■多くの子どもたちに本を通して想いを届けたい

1作目は教員向けの本でしたが、2作目は中学生向けに書きました。実は僕は中学生のときは劣等生で、勉強できなかったんです。勉強できないわ素行悪いわ、みたいな(笑)。本当にできなくて、だから勉強できない子の気持ちはすごくわかるんです。どうしてこれができないんだ!と言われても、「わかんないもんはわかんないだよ!」っていう気持ちがわかるんです。



先生になるきっかけとして、“いい先生と出会えたから”という人はいっぱいいると思うんですが、僕は違って、ある本を読んで先生になろうと思ったんです。ありがたいことに1作目をたくさんの方に読んでもらえて、2作目の本を出せることになったときに、自分が本によって人生が変わったように、今度は自分が本を届けたいなと思いました。いつも目の前の子どもたちに全力、と言う姿勢は絶対に譲れないので、そこは守りつつ、なかなか会えないような子どもたちにも本を通して想いを飛ばそうと思って書いたという感じです。

もし本を読んでくれた学生が、僕と話したいと言ってくれたりすれば、こんな時代なのでオンラインでもいいので話してみたいです。大学の時に教員をやろうと思った時点で、お金儲けと自分の人生は無縁かなと思っているので、ビジネスなど関係なしにひとりでも多くの子と話せたら嬉しいです。多くの人に想いが届いてほしいし、本を通して出逢えたらいいなと思っています。(中学校に行くのが楽しくなる本〜悩みを成長に変える60のヒント/熊谷雅之・福井洸輔 




■教員の志事はAI時代にどう変化していくかーー変わらない教育のあり方、問われるセンス

教育に関する「心震えた瞬間」みたいなものを人生で思い出してと言われたときに、「あのきれいな校舎が」とか、「あの素晴らしいシステムが」と思い出すことって、そんなにないと思うんです。きっと、誰か人の顔が思い浮かぶと思います。「お母さんが真剣に叱ってくれた」とか、「○○先生がめちゃくちゃ褒めてくれた」とか。

教育は手作りだと思っています。どこまでいってもやっぱり人と人とが本気でぶつかりあうことこそ教育だと思います。教師と生徒もそうだけれど、生徒同士もそうで、人が人から学ぶ場所が学校だと考えているので、AI時代もそこは変わらない部分だと思います。

その瞬間の指導、その瞬間の教育というのも絶対にあります。「あの時の行動、こうだったけどさ…」と後から言っても子どもには全然入らないんです。たとえば、すごく傷つくような発言をしてしまったとして、ZOOMなどの場合だと、みんなパソコンの前で構えちゃってるけれど、学校ではある意味素が出ます。そのとき「いや、今の発言はさ…」と、その瞬間に一歩出られるかどうかというのは、AI時代になっても教員のセンスが問われてくるところだと思います。


学習の個別最適化や教員の労働環境改善など、AIがもたらしてくれる明るい未来も

一方で、AIが入ってくることで、個別最適化の学習は絶対に進むと思います。たとえば算数で、間違えた箇所を集積したり、問題を解くのにどのくらいの時間がかかったかを分析してその子に一番最適な問題をどんどん出してくれたり、英語では正しく発音できているかチェックしてくれることもできる。

また、物理的な距離があっても、この先生としゃべりたいと思えばそれが実現するようになるでしょう。担任の先生と合わなくても、そういったことができれば子どもたちにとってもいいですよね。

教員側の立場でいえば、テストの採点はとても時間がかかって、夜な夜な頑張っていても子どもたちから「テスト早く返してください」と言われちゃったりもしますが(笑)、AIによってそれも楽になったりすれば、労働環境も良くなっていくと思います。つい先日も、夜な夜なテストの丸つけをしながら「これがしたくて先生になったわけじゃない!」と叫んでいました(笑)。今、教員は圧倒的に不足しています。ある調査では、全国の公立小中高あわせて2000人以上足りていないこともわかっていますし、これからもっと足りなくなると思います。先生になりたいと思う人も減ってきている中、AIの力は不可欠です。


■子どもたちの幸せを第一の目的に考えて、AIをどんどん活用していきたい。

時間のかかるテストの採点などはAIにまかせれば、僕が教員になって本当にやりたかったことに使える時間が増える。子どもの成長の部分に寄り添っていく志事をするのが教員だという価値観が広がっていけば、教員志望者も増えるかもしれないですし、私たち教員にとっても明るい未来になると思います。知識のインプットやアウトプットや、その判定といった部分はAIに任せて、より本当に人と関わる部分、については教員がやっていくという構図には大賛成です。生徒の悩みを聞いたり対話できる時間が増えることは嬉しいことです。

子どもたちの幸せを第一の目的に考えて、AIを活用できる部分はどんどん活用していきたいですね。



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熊谷雅之
愛知県豊橋市出身。現場第一主義の公立中学校教員。
著書:
『教師は学校をあきらめない! 現場発信 子どもたちを幸せにする教育哲学』(幻冬社)
『中学校に行くのが楽しくなる本〜悩みを成長に変える60のヒント』/熊谷雅之・福井洸輔共著 (みらいパブリッシング)

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