上畠佳奈さん 041 [私の出産] | 第2回ぐるっとママ懸賞作文

「私の出産」~母から子へ伝えたい言葉~

第2回ぐるっとママ懸賞作文

上畠佳奈さん 041 [私の出産]

赤ちゃんとプリン
パパのおかげで乗り切った出産。初めて3人で過ごした日、心がずっとぽかぽか暖かったよ。
 

初めての出産はどうしても夫に立ち合ってもらいたかった。単身赴任で別居したいたこともあり、出産を夫婦として乗り越えたかったからだ。幸いなことに、コロナの感染状況が落ち着いてきて、立ち合い出産が可能となった。出産後の忘れられない幸せな思い出を今も時々思い出す。

深夜一時すぎに産声があがり、あれよあれよと親子三人、布団の上で川の字に並べられた。「生まれてすぐの赤ちゃんは泣き続けるから。気にしなくて大丈夫!」泣き続けるわが子に戸惑いながらも、頼りになる肝っ玉母さん的な助産師さんにそう言われ、そういうものかと頭の中でぼんやり考えた。泣き声が気になりつつも、壮絶で強烈な出産を終えた私は、疲れ果てて、あっという間に眠りについた。

まどろみの中で、目をうっすら開けると、夫が赤ちゃんを抱いて、歩き回っている。この世界に産まれたことを精一杯主張するように、娘はたった一人で声をあげている。悲しさを伝えるというものではなく、自分の存在を世界に伝えているみたいだった。「かれんの好きなものは、プリン」「プーリーン」そんな夫の声が聞こえてくる。プリン?なんだなんだ?と思いながら、私はその言葉を聞きながら、いつのまにかまた、眠ってしまった。

産院の栄養満点な朝ごはんが運ばれ、私は目を覚ました。目が覚めて、身体中の痛さに驚きつつも、はやく元気になるために力を振り絞り、ごはんを食べる。ふと後ろを振り返るとそこには夫と赤ちゃんが眠っている。幸せだ!と強烈に感じて、涙がぽろぽろ零れた。幸せだー、幸せってこれなんだ。そう、心の中で叫んだ。気力はあったが、身体は受け付けず、朝ごはんを半分残して、もう一度横になる。赤ちゃんが産まれた日の空を写真に収めたいと思っていたので、スマホを取り出し、二人が並んで眠る先にある大きな窓を映した。

しばらくした後、また目が覚めて、夫が赤ちゃんを抱っこしてあやしていたので、また幸せだと思う。そう思いながら、私は昨夜のプリンについて尋ねた。「かれんが泣き続けているから、抱っこやトントンして試行錯誤していた。じっと見ていると、口をパクパクさせていたから、お腹空いたんじゃないかと思って、色んな食べ物の名前を連呼したんだ。おにぎり、ラーメン、カレー、アイスクリーム、ケーキ…プリン。プリンと言った時に、少し泣き止んだ気がしたから」私は笑ってしまった。勝手に笑っておきながら、傷が痛いから笑わせないでと、夫に怒る。立ち会い出産でずっと私を励まして、意識朦朧とした私に噛み付かれたりしながらも、身体をさすったり、抱えたりしてくれた夫。出産後、私は眠っていたけど、夫のかけがえのない長い夜は、続いていたんだ。オロオロしながら、産まれてすぐの赤ちゃんを胸に抱いて、どんなに不安で、どんなに愛おしかったのだろうか。赤ちゃんが泣かないように、試行錯誤していた彼の姿を想像して涙が零れる。「食べ物なんてまだまだ分かんないでしょ。…でも、かれんちゃんにはプリンたくさん買ってあげようね。」私は幸せを感じながら、夫にそう言った。

その日の夜、隣の部屋に入院している方から差し入れが届いた。それはなんと、プリンだった。夫が夜中に「プリン」を連呼する声が隣に聞こえてしまったのではないかと心配になったが、それがまた面白くて、笑ってしまった。「ああ、痛い」と小さな悲鳴を上げながら。今まで食べた中で一番美味しいプリンだった。


 
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