助産師として42年の歳月を費やしている山本助産院の院長、山本詩子先生を訪ねました。
金沢区六浦の山の上にある瀟洒な建物は病院でしか出産したことのない私には見るものすべてが感動でした。
ここでは先生からお聞きしたことや助産院が大切にしていることなど、出産を控えている女性や子育て中のママに向けに取材してきたことを書かせていただきます。
昭和30年代前までは自宅で出産するのが普通で経過が順調で正常ならば、女性には産む力があるし、赤ちゃんには生まれてくる力がある。朝ごはん抜きとか、お掃除もしない女性が妊娠を機に身体も心もリセットする。
日常の動作も食事もこの子のために何かしなくちゃって。どんな人でもその気持ちを持っている。そこに専門職である私たちが何かちょっとした導きやヒントを後押しをしてあげると女性は変わっていく。
女性が母になっていく姿を見るのがとても面白いし、頼もしい。短いスカートをはいていた女性がお腹のふくらみと同時に着るものや食事に気を使っていく。出産後もこの子にきちんとしたものを食べさせたいな母乳を飲ませたいなと思う。あの子がこんなに変わちゃったという沢山の女性を見てきた。
女性にしか出来ない女性に備わったその力をまず発揮しつつ「女性性」を全うする。今、多くのママが悩んでいる。
ご主人に見てほしいんですけれど、階段のところにある「今日」、ママたちはこれを読んで中には涙する人もいます。
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「今日」
今日わたしは皿を洗わなかった。
ベットはくちゃくちゃのまま。
おむつは水に浸したままだから、
少し臭いがきつくなってきた。
昨日、床に落としたたべかすが
私をじーっと見上げている。
手でイタズラ描きをされた壁は
多分秋が来るまでそのまま。
窓ガラスに書かれた汚い線画も
つぎに雨が降るまで、そのまま。
だらしないよね。
きっと人には「ねえ 今日何していたの?」って
言われちゃうかもしれないよね。
わたしは、赤ちゃんが眠りにつくまで抱っこしていた。
わたしは、子どもが泣きやむまでずーっと抱っこしていた。
わたしは、かくれんぼして遊んでいた。
わたしは、キューっと鳴るおもちゃを握っては鳴らしていた。
わたしは、乗り物を揺らしては歌を歌っていた。
わたしは、こどもにしていいことと悪いことを教えた
わたしは、この一日というもの
ホントに何をしていたんだろう?
大したこと、やっていないかも
自分でもそれはそうだと思う
でも、こう考えてみたらどう?
たぶんわたしは深いまなざしと
ふわふわ髪の、そう、この子に、
とっても大切なことをしたって
もし、それが本当ならわたしは
自分のやるべきことをちゃーんと
やれた!っていうことだよね。
作者不詳(詠み知らず)
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ママたちは何もしていないというけれど、
「私は今、この子を育てている子育てしているっていうだけでいいんですよ。お仕事していますよ。」って言います。
妊娠中からしっかりお母さんをサポートしていくことで女性性と母親役割っていうのは開花していく。そのような大切な時期にかかわりを持てなかったり、持つことが出来なかったお母さんが悲惨な結果になったりする。
助産師は赤ちゃんが生まれたときからずっと関り、性教育や母になる準備や慈しむことの大切さ、母乳をあげることによって愛しいと思えるホルモンだ出てくるんだよという基本的なことを教えることが出来たらと思う。
昔は子育て中のお母さんも集まる広場に行けば、お母さん同士、相談したりアドバイスをくれたり、よそんちの子どもを抱っこして当たり前だったけれど、それが今は出来ない。医療従事者よりお母さん同士がコミュニティで話して夜泣きして寝ないとか、ご飯食べてくれないとか、おむつが取れないとか、薬飲むのがすごく嫌がるとか、話していく。
子育ては子育て伝承です。親元から離れて自分もお母さんになっておっぱい飲んで育った自分がおっぱいあげて育てていく。この伝承が今希薄になっている。
子育てはおおざっぱでいい。おおざっぱで楽しみましょう。子育てはつらくて苦しいものではなくてやはり人生を豊かにしてくれるものだと思うから・・。
お母さんたちはわかっているんですよ。子どもが楽しそうにニコニコしていたら幸せな気分になるし、おいしそうにおっぱいを飲んでいたら幸福感に漂うじゃないですか?子育てはつらいこともあるけれど、基本は楽しいことなんですね。
「子育ては楽しいなんて言わないでください」ってネットに書いてありますが、公園に行くと楽しんでいるではないですか?辛くて苦しくてもう、殺めてしまいそうなこの人たちをもっともっと大事にしていかなければならない。社会全体で手厚く関りのメッセージをしていく。
今、産後ケアが必要です。とにかく赤ちゃんを預けて寝たいというお母さんやゆっくりしたいというお母さんたちのために施設です。
先生は現時点で2,230人の赤ちゃんをとりあげています。
記念すべき2,222人目の赤ちゃんが生まれたときには記念として先生からメッセージ付きのアルバムが贈られました。
*その中のメッセージ*
山本助産院開設から26年がたち、2222人目の赤ちゃんを迎えることが出来ました。たくさんの家族の笑顔に出会い、幸福の中に身をおけることに感謝しかありません。
この世で一番はじめに触れ、命の橋渡しをするとき「大切に育ててね。この子を頼みましたよ」いつも心の中で願います。
幸せな人生を歩みなさいと、そっと母の胸に送り出しているのです。
つらい陣痛を乗り越えた母親の安堵した表情と、幾つもの関門をくぐり抜け一人旅をしてきた赤ちゃんの誇らしい産声に励まされながら、ここまで続けてくることが出来ました。
山本助産院でお産してくださいまして、ありがとうございました。
2222人目を記念してアルバムを贈ります。
この先の人生に幸多かれと願いながら
*山本助産院 院長 山本詩子*
以前、三原じゅん子衆議院議員と共に訪問した時の写真も添えます。
病室にて。すべて個室です。
山本助産院は地域のママたちのために親と子のつどいの広場も併設しています。文中にもあるようにママがゆっくりしたい時や誰かと話したい時の大切なコミュニテーの場となっています。