しおりさん「あなたは〇〇って産まれてきたの」 | 第1回ぐるっとママ懸賞作文

「私の出産」~母から子へ伝えたい言葉~

第1回ぐるっとママ懸賞作文

しおりさん「あなたは〇〇って産まれてきたの」

『無事に産まれてきてね、元気に大きくなってね、ただそれだけでいいの』
 

「あなたはスポーンって産まれてきたの」とよく母に聞かされていた。

どうやら私も妹もあっという間に産まれたらしい。
出てきそうになるのを必死に耐えながら病院へ向かったと言っていた。

ちなみに母自身もスポーンと産まれてきたらしい。
祖母も「まだ出てこないで」という気持ちで病院まで必死に向かったエピソードを同じように語ってくれていた。

だからあなたもいつか子供を産むときは安産よ。
そう言われてきたけれど、果たして3ヶ月後の私は何と答えるのでしょう。

スポーンだなんてウォータースライダーから勢いよく滑ってきて顔を出した子供みたいに言うけれど、母だって祖母だって痛い思いを全くしていないわけがない。
そして産むその瞬間だけ苦労したわけではない。

母は私がお腹にいると分かってすぐに仕事を辞めたと言っていた。
そういう時代だと思っていた。
しかし、例のスポーンと産んだ話しか知らなかったが、どうやら母はつわりにとても苦しんだようだ。
それでも仕事をできるだけ続けたのち辞めたという。
そんなこと、私自身がつわりを経験して母に泣き言を言うまでエピソードを聞く機会がなかった。

私は思春期に自ら命を絶ちたいと思うことが何度かあった。
スポーンと産まれた裏には私の知らない多くの思いがあったであろうことなど考えることもなく、この世から跡形もなく消えてしまいたいと思う日々だった。
その思いはずるずると近年まで続いていた。
でも自分のお腹に今、新しい命が宿って、そのお腹に手を当てる度に母の思いを感じる。

無事に産まれてきてね、元気に大きくなってね、ただそれだけでいいの。

それは母から私へのメッセージでもあり、私からお腹の子へのメッセージでもあるのかな、と考える。
母になるということは、私が私の母からの思いを受け取るということだと気づかされた。
我が子が無事に産まれ、生きていくことを願いながら、私自身も無事に産まれてここまで生きてこれたことに感謝し、これからも生きていこうと思えた。

あと3ヶ月でスポーンと産まれてくる予定の我が子も、きっとたくさんのことを感じ、考え、この世の中をどう歩こうか迷う日がくるはず。
私が感じた母としての思いをいつか伝える日が来るかもしれないし、ふとした瞬間に我が子自身が気づくかもしれない。
分からないけれど、つい恥ずかしくなって思いを上手く伝えられず、結局私もこう言うのだろうか。

「あなたはスポーンって産まれてきたの」って。

 

神奈川県 しおりさん
題名:「あなたは〇〇って産まれてきたの」
子どもへ伝えたい言葉:「無事に産まれてきてね、元気に大きくなってね、ただそれだけでいいの」