N.Tさん「毎日、泣きたくなるほど」 | 第1回ぐるっとママ懸賞作文

「私の出産」~母から子へ伝えたい言葉~

第1回ぐるっとママ懸賞作文

N.Tさん「毎日、泣きたくなるほど」

『あなたたちがいる毎日は、妊娠する前に想像していたよりもずっと大変で、それ以上に幸せで、大切な時間です。』
 

私には三歳と一歳の二人の子どもがいる。

この春からワーキングマザーとして仕事に復帰した。
日々「一日が三十時間くらいあれば良いのに!」と現実離れしたことを考えながら、よくある日々を慌ただしくも楽しく過ごすことができているのは、間違いなく家族の協力と子どもたちの存在があってこそである。
今はまだ幼く、母親の私が何を考え、二人に何を願っているのかを直接伝えることは難しい。なので、二人に向けた手紙として、今の思いを残しておこうと思う。 
     
子どもたちへ

いつかあなたたちに、「自分が生まれるときってどんな風だったの?」と聞かれたら、「あなたたちは二人ともお父さんとお母さんが願って、願って、体外受精でようやく授かることができた奇跡だよ!」と素直に伝えようと決めている。

昔から子どもが好きで、結婚したら子どもを授かることが理想だった私(お母さん)は、結婚して三年近く、その理想を叶えられず毎日のように泣いていた。 
自分よりも後に結婚した友人や、芸能人のおめでたの話題を耳にする度、整理できない感情に苛まれ、その負の感情を夫にぶつけてばかり。
誰かと比べるものではないと頭では分かっていても、妊娠できないことを知る度に、自分自身が否定されている気分になってしまったのだ。
(今考えると夫も災難だったな・・と反省している。)

このままでは、せっかく家族になりたいと思った夫との関係も壊れてしまう、そう思って本格的な不妊治療を始めたのが結婚二年目。

それでも明確な不妊の原因は解明できず、初期の治療では残念ながら授かることができずに、治療のステップは上がっていった。 
ついに体外受精へ進むことになった時、私の中にあったのは「これで結果がでなければ、私たちは一生子どもができないのかもしれない」、という諦めの混じった冷静な感情だったのを覚えている。

度重なる通院による遅刻早退、服薬、自己注射・・・会社の化粧室で注射をする時間はとてつもない緊張感だった。
それでも、“赤ちゃんに会えるかもしれない”という期待だけで、注射の内出血も採卵の全身麻酔による副作用も気にならなかった。

二回目の移植でお姉ちゃんの妊娠が判明した日、医師からの説明を聞きながら全身の力が抜けたあの感覚は、今も鮮明に思い出すことができる。
それは妊娠周期を重ねるごとに喜びになり、出産当日、産声を聞いた瞬間、痛みも疲れも一瞬消えてしまうほど“可愛い”という感情で胸が一杯になった。

お姉ちゃんが無事に生まれ、数ヶ月が経つ頃には、早くも自分の中で“凍結していた受精卵で再度体外受精をする”ことを決めていた。
一人目でこんなにも私も周りも喜びに満ちているのであれば、家族が増えたらきっともっと幸せだ、とシンプルに思えたからだ。

幸運なことに再び授かることができ、昨年、私たちは四人家族になった。

「子どもは授かりものだから」「まだ若いし、そんなに焦らなくても」不妊治療をすると、色んな声が聞こえてくる。
子どもの有無が幸せの基準ではないし、経済的な負担も決して軽くはない。でも、周りの声が私を幸せにしてくれる訳ではない。

私たちは自分の意思で不妊治療をすると決めたからあなたたち二人の親になることができ、今が幸せだと胸を張って言える。

と言いつつも、現実はそれほど綺麗ではなく、大声で怒る朝や、一切の気力を失う夜も毎日のようにある。
それでも、あなたたちの楽しそうな笑顔や拙いお喋り、穏やかな寝顔を見られるだけで、何があっても頑張ろうと思えるのだ。

親になり、報道で目にする子どもの悲しい事件や事故の話題が他人事ではなくなり、見る度に胸が苦しくなる。
ありふれた、ごく当たり前の日常は、思ったよりも脆く、明日が約束された未来ではない。

泣きたくなるほどの“普通の”幸せをくれる二人に。
私たちを親にしてくれてありがとう。二人と過ごす毎日が、幸せだよ。

 

東京都 N.Tさん
題名:毎日、泣きたくなるほど
子どもへ伝えたい言葉:「あなたたちがいる毎日は、妊娠する前に想像していたよりもずっと大変で、それ以上に幸せで、大切な時間です。」