菜々子さん「最愛の君へ」 | 第1回ぐるっとママ懸賞作文

「私の出産」~母から子へ伝えたい言葉~

第1回ぐるっとママ懸賞作文

菜々子さん「最愛の君へ」

『月並みだけど、産まれてきてくれてありがとう。 いつか読んでくれたら嬉しいな。正直な気持ちです。』
 

か細い声で泣いた後、助産師さんがお腹の上に乗せてくれたのが初対面。
「うわさでは感動するはずだけど・・・何も感じないのは疲れているせいかな・・・」とぼんやり考えていた。
産んだら母性が湧き出てくるのだと思っていたけれど、全くだったのよ。

君がお腹の中にいると分かった時から「最高の子育て」をすべく何十冊も育児本を読み、夜泣きやイヤイヤ期などへの対応も頭に叩き込んで、あらゆる育児アイテムを揃え、準備は万端。
素敵な産院で優しい夫が見守る中、痛みも少ない無痛分娩で愛しい我が子と対面だ!と思っていてね。
予想は見事に外れたよ。

明け方の陣痛で麻酔医が不在。無痛どころか激痛で、後半は記憶がないくらいだった。
退院後は家事と仕事と、これまた想定外の夫不在のワンオペ育児。

そして一番の想定外は「愛おしい」が生まれない自分の心。

数時間ごとの授乳、昼夜問わずの泣き声、病気がちな君、眠れない日々。想像上は「楽勝」だったけれど、とんでもなかった。
「母親として生きていくって何て辛いんだ、『母性が湧き出る方法』なんて本には書いてなかったし・・・私は子育てが苦手なのか・・・どうしよう、ちゃんと育てられるのかな・・・」と真っ暗な迷路に迷い込んでしまった。

でも結論から言えば全くの杞憂に終わって、必死に育てているうちに不思議と君の仕草や寝顔、屈託のない笑顔の虜になってしまったよ。

そして六ヶ月が過ぎ、またまた予想だにしない事態。
君は生まれつきの障害で手術する事になった。原因の一つは妊娠中の食事の偏りだった。
手術室に運ばれていく小さな体、術後の痛みで泣く君の声に、申し訳ない気持ちでいっぱいで。

手術は成功し無事退院できたけど、その出来事で思い知らされた。
君の体の全ては、私が食べるものから作られていたんだと。
そして君の命の安全はもちろん、心の健やかな成長も私に懸かっているんだという事。考えてみれば当たり前なんだけど。

「これは責任重大だ!しっかりしなきゃ。この子を絶対に幸せにしたい。」と思ったの。

それ以降も相変わらず「育児が苦手」な事に変わりなかったけれど、君と一緒にたくさん学んで共に成長しているんだと感じたし、何より君がいてくれる事で寝顔や笑顔に癒され、頑張れているよ。

私の価値観も大きく変わってね、正直に言うと、君が生まれる前は100年後の事なんてあまり真剣に考えていなかった。
でも今は気付くと、100年、200年先の未来に思いを馳せている。
色々な世界危機が現実のものになりつつある今、私は大人として何ができるだろうか。
君が活躍している未来の地球が、幸せで満ちている世界であって欲しい。そのために何が遺せるだろうか、と。
君の寝息を聞きながら今も考えていて、もはやそれが生きる原動力になっているよ。

毎日唇を尖らせては私を困らせ、毎晩「ママ大好きよ」とささやいてくれる君へ。
もう耳たこだと思うけど、ママは頑張るからね。大好きよ。ありがとう。

 

東京都 菜々子さん
題名:最愛の君へ
子どもへ伝えたい言葉:「月並みだけど、産まれてきてくれてありがとう。 いつか読んでくれたら嬉しいな。正直な気持ちです。」